【会期】
2022年 10月27日(木) - 12月18日(日)
【開館日】
会期中の木・金・土・日曜日
【開催時間】
10:00 - 17:00 ※70分ごとの時間別予約制
【出陳作家】
藤田嗣治 / 香月泰男 / 安井曹太郎 / 梅原龍三郎 田崎廣助 / 坂本繁二郎 / 棟方志功 / 東洲斎写楽 畦地梅太郎 / 前田政雄 / 小野忠重 / 北川民次 他
日本画に対する言葉として生まれた洋画は、たいへん良い呼び名でした。なぜなら、近代の油絵や水彩画は、海外の動向に触発された受容と折衷の歴史だからです。その洋画は小首をかしげたくなるほど日本美術に近づきながらも、確実に世界を舞台に活躍しました。すなわち生命力や自然界の均整のとれた高まりである美を見る者に提供したのです。もちろん、西洋と東洋とを結合する様式が、その後の新しい美術様式とはいえません。アウトサイドアートやスーパーフラットなど真新しい言葉がいとも普通に語られている今日では今さら日本画と洋画の垣根がどうしたという問題ではないからです。しかし、西洋の名が冠せられた最後の一線ともいうべき絵画は、戦後に一つの頂点に達して、更に成長したようです。それは何かに不満を感じ、常に何かを追求し、落ち着かないながらも、もう少しの頑張りで一つの結合を果たそうとしたようです。
梅原龍三郎「ばら」
田崎廣助「夜明けの大山」
今回の木版画の変遷は、東洋と西洋の豊かな推移とともに表現の裾野を広げた木版画の世界を、洋画家でありながら木版画に手を染めた画家や、洋画家を志しながら木版画家に転身した画家など、主に非正統派の側から注目します。日本画と洋画という違いに目を奪われるだけでなく、その違いにこそ美の源が含んでいるという意識のもとで表現をとらえることで成長した近代の木版画を見つめ直すためです。かつて海を越えて上陸し、清新な気運を引き起こした西洋の文化革命は、一つの美が、もう一つの美へと置き換えられ、和と洋が交互にバトンを繋ぐような、二重、三重のルネッサンスでした。その新しい美術の動向を、胸をどきどきさせて見つめた、画家たちの視線が、多少なりとも分かっていただけたら、それは、この展覧会の目的達成ということになります。これは西洋を取り入れたものなのか、あるいは日本的な要素を拝借したものなのか、現代の視点で観ると判定しかねるところも少なくない木版画という独特の発展をした世界と、意外に必然性のない洋画というキャッチフレーズの美をお楽しみください。
ところで、西洋の絵画と対峙することで自らのアイデンティティを確立してきた近代の木版画は伝統的な日本の絵画から多くを受け継ぎながらも、その基本には、鮮やかな色彩のリズミカルな配列があるようです。それは心情や理性だけでなく、直接眼に訴える効果といえます。絵画の美のために、時には伝統を思い切って切り捨てる近代的な洋画との関係をあらわにした木版画は、後に続く現代化に決定的な役割を果たしたようです。絵画の要素としての近代美は、それ自身として美しく、印象的な図形を強調するものですが、出発点の違う日本画と木版画においても、その原則は適用されていると思います。眼を驚かせるようなイメージで、対象をとらえることによって、時には静かな存在を優しく、また時にはあてどなく想像の翼に乗ることで、導かれ、浮かんでくるイメージを内面的な探究として結実させた近代の絵画は、想像の光と、現実の影が、不思議に入り混じったファンタジーと言えます。